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D022構造(bct)における構造最適化に関する質問
Posted on : May 17, 2024 (Fri) 19:20:31
by 久木田 真治
五味さま
お世話になっております。東京工業大学大学院の久木田です。
以前申したように、Ni3Nb(D022構造)においてNbの置換を試みる前段階として構造最適化を行っているのですが、こちらがうまくいっておらず、再び質問させていただいた次第です。
具体的には、マフィンティン球の体積・格子体積を固定し、体積率を固定したうえで計算したところ、文献値に比べc/aの値が小さくなる点が解決できずにいます。
XRDによる計測だと、Ni3Nbの格子定数はa=3.62(Å)、c/a=2.047、格子体積V=97.1(Å^3)とされています。また、第一原理計算を行った他の文献でもおおむねこの値で安定となっています。加えて、以前のアドバイスにあった状態密度の比較に関しては、この文献の物とは大きくは違ってはいないです。
今まで行った試行は以下の通りです。c/aは2.00-2.06の範囲で値を変え、aに関しても格子体積が固定化されるよう対応させています。
(1)a=3.62(Å),c/a=2.047の時、rmt=0で出てきた値でNb:Ni1:Ni2の比を固定しマフィンティン球同士が干渉しない程度に体積率を最大化。出力されたrmtの値はNb=0.38459 Ni1=0.33087 Ni2=0.32252。
(2)文献での原子半径比(Nb=1.468 (Å), Ni=1.246 (Å), Nb/Ni=1.178)でrmtの値を固定し、かつ体積率を最大化。Ni1とNi2は同じ値で設定。
(3)a=3.62(Å),c/a=2.047において格子をマフィンティン球が占める体積を最大化するよう設定。その後、c/aを変えたときに球同士が干渉するようならrmtを小さくした。方法としてはねがてぃぶろぐに掲載されているこちらのページの内容を、D022に適応した形です。
http://gomisai.blog75.fc2.com/blog-entry-614.html
いずれの条件においてもc/aを変える際にはマフィンティン球のサイズを固定し、体積率の増減がないことを出力後のログから確認しています。体積率に関してはおおむね64%前後で最大となっています。
これらの計算結果ではc/a=2.00-2.01で安定となり、文献に比べかなり小さい値となっています。それと、試しにrmt=0で計算を行うと文献値であるc/a=2.047で安定となりました。
また、これが正しい方法かはわかりませんが、(2)の条件で体積率を64%で固定化し、格子体積の値を変えてみたところ、文献値よりもわずかに高いV=98(Å^3),c/a=2.01で安定となりました。
自分の考えでは、マフィンティン半径の設定がよくないのかなとは思っているのですが、一方でrmt=0で計算した方が良い結果となっている点や、上には記していない方法でもc/aが2.01付近で張り付いているのが奇妙に感じています。
以上を踏まえて、今回お聞きしたいのは以下の点となります。
・文献値との不一致はマフィンティン半径の設定が適地から外れてしまっていることが大きいのでしょうか。あるいは他の要因によるものなのでしょうか。
・マフィンティン半径の最適化が難しいのは理解していますが、どういった方法が他に考えられるのでしょうか。
・格子体積に関しては、文献値よりもわずかに大きい値で安定となりました。熱膨張を考えると、文献値よりも小さい値になるならばあまりおかしくはないのですが、このくらいならば誤差の範囲内なのでしょうか。あるいは、格子体積を変えて比較する場合にはこの方法では適していないのでしょうか。
質問は以上となります。お手数をおかけしますが、お答えいただけると幸いです。
久木田
入力ファイル 条件(2) a=6.843 Ry(3.64Å) c/a=2.047
c----------------------------------------------------------
go out/MRtest/Ni3Nb-MRtest-a-3.62-ca-2.047-NbMR-0-NiMR-0
c------------------------------------------------------------
c brvtyp a c/a b/a alpha beta gamma
bct 6.843 2.047 1 90 90 90
c------------------------------------------------------------
c edelt ewidth reltyp sdftyp magtyp record
0.001 1.0 nrl mjw nmag 2nd
c------------------------------------------------------------
c outtyp bzqlty maxitr pmix
update 4 500 0.0035
c------------------------------------------------------------
c ntyp
3
c------------------------------------------------------------
c type ncmp rmt field mxl anclr conc
Nb 1 0.382662996 0 2 41 100
Ni1 1 0.324794341 0 2 28 100
Ni2 1 0.324794341 0 2 28 100
c------------------------------------------------------------
c natm
4
c------------------------------------------------------------
c atmicx(in the unit of a) atmtyp
0 0 0 Nb
0.5 0 0.51175 Ni1
0 0.5 0.51175 Ni1
0 0 1.0235 Ni2
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[Re:02] D022構造(bct)における構造最適化に関する質問
Posted on : May 31, 2024 (Fri) 11:47:28
by 久木田 真治
五味さま
返信いただきありがとうございます。
まず、格子体積に関してはアドバイスの通りに相対論効果をsraに、交換相関汎関数をvwnにしたところ、だいぶ改善されました。
一方で、c/aに関してはあまり変化しませんでした。この研究の目的としてはNbの置換による安定相を形成する元素の特定にあるため、ひとまずc/aに関しては現状のままで行き、マフィンティン半径に関しては過去の論文を探してみるという方針です。
アドバイスいただきありがとうございました。
久木田
610
[Re:01] D022構造(bct)における構造最適化に関する質問
Posted on : May 23, 2024 (Thu) 01:44:11
by Hitoshi GOMI
久木田さま
AkaiKKRでc/aを最適化すると2.01になるのに対して、文献値はc/a=2.047であり、AkaiKKRの方が小さいという事ですね。
私には2.01と2.047の差がどの程度大きいのか分かりませんが、大前提としてAkaiKKRを含むあらゆる第一原理計算ソフトの結果から得られる計算値(c/aに限らずあらゆる物性)は、実験値と完全に一致することはありません。
したがって、ソフトの使い方に間違いがないのならば、計算値と実験値とのずれを受け入れなければいけないでしょう。
AkaiKKRはマフィンティン近似を用いているので、他の第一原理計算ソフトよりもc/aの最適化が苦手なはずです。
また、計算値と実験値がずれるのは当たり前なので、計算設定の何らかの値(例えばMT半径)を変更したときに得られた計算値が実験値に近づいたとしても、そのことを必ずしも計算設定が改善されたと判断するのは危険だと思います。
例えば下記ブログエントリで、格子定数が近いGGAの方が優れた計算なのか、格子定数を最適化した時の磁気モーメントが近いLDAの方が優れた計算なのかを判断するのは難しいでしょう。
AkaiKKRでLDAとGGA その2
http://gomisai.blog75.fc2.com/blog-entry-696.html
むしろ、MT半径のように正解を出すのが難しいパラメータに依存する誤差が存在する場合、その誤差の存在を認めたうえで展開できる議論を考える方が論文(修士論文にせよ投稿論文にせよ)を書く上で健全だと思います。
以上を踏まえて、質問に対する答えは以下のような感じです。
>・文献値との不一致はマフィンティン半径の設定が適地から外れてしまっていることが大きいのでしょうか。あるいは他の要因によるものなのでしょうか。
わかりません。その可能性もあるし他の可能性もあります。
>・格子体積に関しては、文献値よりもわずかに大きい値で安定となりました。熱膨張を考えると、文献値よりも小さい値になるならばあまりおかしくはないのですが、このくらいならば誤差の範囲内なのでしょうか。あるいは、格子体積を変えて比較する場合にはこの方法では適していないのでしょうか。
MT半径以外で格子定数に影響を与える他のパラメータとして有名なところとしては、k点の分割数(bzqlty)や交換相関汎関数(sdftyp)があると思います。
AkaiKKRで銅の格子定数
http://gomisai.blog75.fc2.com/blog-entry-593.html
AkaiKKRでLDAとGGA その1
http://gomisai.blog75.fc2.com/blog-entry-695.html
AkaiKKRでLDAとGGA その2
http://gomisai.blog75.fc2.com/blog-entry-696.html
格子定数に影響があるかは分かりませんが、相対論効果(reltyp)に非相対論(nrl)を使っているのは少し気になります。
私はいつもスカラー相対論(sra)を使ってます。計算時間もほとんど変わらないですし。
AkaiKKRで鉛の相対論計算
http://gomisai.blog75.fc2.com/blog-entry-640.html
他にも格子定数に影響を与えるパラメータはきっとあるでしょう。
>・マフィンティン半径の最適化が難しいのは理解していますが、どういった方法が他に考えられるのでしょうか。
最近のフルポテンシャル化された計算ソフトではMT半径の影響が小さかったり、そもそも擬ポテンシャル法のようにMT半径と言うパラメータが存在しなかったりしますよね。
球対称近似を用いた計算ソフトで、MT半径の決め方をどうすべきか議論していそうな雰囲気が漂っているのはかなり昔の論文(1980年代ぐらい?)な気がしています。
その辺の論文をあされば何かヒントがあるかもしれません。
ただし、KKRと他の手法(例えばLMTO)では勝手が違うとも赤井先生から伺ったことがあります。
実際、AkaiKKRではc/aの最適化時にMT球の占める体積の割合を固定しますが、LMTOの論文ではMT球の体積そのものを固定しているものをよく見ます。
五味
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