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[Re:01] D022構造(bct)における構造最適化に関する質問
Posted on : May 23, 2024 (Thu) 01:44:11
by Hitoshi GOMI
久木田さま
AkaiKKRでc/aを最適化すると2.01になるのに対して、文献値はc/a=2.047であり、AkaiKKRの方が小さいという事ですね。
私には2.01と2.047の差がどの程度大きいのか分かりませんが、大前提としてAkaiKKRを含むあらゆる第一原理計算ソフトの結果から得られる計算値(c/aに限らずあらゆる物性)は、実験値と完全に一致することはありません。
したがって、ソフトの使い方に間違いがないのならば、計算値と実験値とのずれを受け入れなければいけないでしょう。
AkaiKKRはマフィンティン近似を用いているので、他の第一原理計算ソフトよりもc/aの最適化が苦手なはずです。
また、計算値と実験値がずれるのは当たり前なので、計算設定の何らかの値(例えばMT半径)を変更したときに得られた計算値が実験値に近づいたとしても、そのことを必ずしも計算設定が改善されたと判断するのは危険だと思います。
例えば下記ブログエントリで、格子定数が近いGGAの方が優れた計算なのか、格子定数を最適化した時の磁気モーメントが近いLDAの方が優れた計算なのかを判断するのは難しいでしょう。
AkaiKKRでLDAとGGA その2
http://gomisai.blog75.fc2.com/blog-entry-696.html
むしろ、MT半径のように正解を出すのが難しいパラメータに依存する誤差が存在する場合、その誤差の存在を認めたうえで展開できる議論を考える方が論文(修士論文にせよ投稿論文にせよ)を書く上で健全だと思います。
以上を踏まえて、質問に対する答えは以下のような感じです。
>・文献値との不一致はマフィンティン半径の設定が適地から外れてしまっていることが大きいのでしょうか。あるいは他の要因によるものなのでしょうか。
わかりません。その可能性もあるし他の可能性もあります。
>・格子体積に関しては、文献値よりもわずかに大きい値で安定となりました。熱膨張を考えると、文献値よりも小さい値になるならばあまりおかしくはないのですが、このくらいならば誤差の範囲内なのでしょうか。あるいは、格子体積を変えて比較する場合にはこの方法では適していないのでしょうか。
MT半径以外で格子定数に影響を与える他のパラメータとして有名なところとしては、k点の分割数(bzqlty)や交換相関汎関数(sdftyp)があると思います。
AkaiKKRで銅の格子定数
http://gomisai.blog75.fc2.com/blog-entry-593.html
AkaiKKRでLDAとGGA その1
http://gomisai.blog75.fc2.com/blog-entry-695.html
AkaiKKRでLDAとGGA その2
http://gomisai.blog75.fc2.com/blog-entry-696.html
格子定数に影響があるかは分かりませんが、相対論効果(reltyp)に非相対論(nrl)を使っているのは少し気になります。
私はいつもスカラー相対論(sra)を使ってます。計算時間もほとんど変わらないですし。
AkaiKKRで鉛の相対論計算
http://gomisai.blog75.fc2.com/blog-entry-640.html
他にも格子定数に影響を与えるパラメータはきっとあるでしょう。
>・マフィンティン半径の最適化が難しいのは理解していますが、どういった方法が他に考えられるのでしょうか。
最近のフルポテンシャル化された計算ソフトではMT半径の影響が小さかったり、そもそも擬ポテンシャル法のようにMT半径と言うパラメータが存在しなかったりしますよね。
球対称近似を用いた計算ソフトで、MT半径の決め方をどうすべきか議論していそうな雰囲気が漂っているのはかなり昔の論文(1980年代ぐらい?)な気がしています。
その辺の論文をあされば何かヒントがあるかもしれません。
ただし、KKRと他の手法(例えばLMTO)では勝手が違うとも赤井先生から伺ったことがあります。
実際、AkaiKKRではc/aの最適化時にMT球の占める体積の割合を固定しますが、LMTOの論文ではMT球の体積そのものを固定しているものをよく見ます。
五味